こんにちは!
印刷会社からの見積もりで、「版代」ってみたことありませんか?
そもそも、「版」って何なのでしょうか。
今回は、この「版」についてやさしく・詳しく解説させていただきます!
版を知って、グラフィックデザイナーとしてレベルアップしましょう!
まず結論。
CTP版(アルミ表面に特殊な加工を施した板状の物)を材料とし、表面にデザイン(網点)が形成されたもの
こんなやつ。現場では刷版とも呼ばれます。
※本記事は、オフセット印刷(平版印刷)の版を解説します。オフセット印刷はチラシやパンフレット、紙製のパッケージを印刷する際に用いられます。スクリーン印刷(孔版印刷)やグラビア印刷(凹版印刷)、フレキソ印刷(凸版印刷)の版については言及しておりません。
目次
そもそもなぜ版は必要?
チラシやパンフレット、紙製のパッケージなどの多くは、オフセット印刷と呼ばれる印刷手法が用いられています。
オフセット印刷の原理・原則において「版」が必ず必要となります。
オフセット印刷の原理
インキが版からブランケットにいったん転写され(オフ)、ブランケット(ゴム)から紙に印刷される。(セット)
・例)カラー印刷(4c)(CMYK)の場合
カラー印刷は
・C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(スミ)の4色
からなりますので、必要な版は4つとなります。
・例)特色1色印刷(1c)の場合
DICやPANTONEで指定された1色だけ使った印刷物の場合、1つの版が必要となります。
・例)特色多色印刷の場合
デザインに使用されている特色毎に版が必要になります。
僕の経験では、最大で、一つの印刷物に7版使用したことがあります。
カラー(CMYK)+金+銀+ニスで7版
仕上がりもお値段もゴージャスです。
版はどうやって作られるのか?
では、その版って一体全体どうやって作られるのか。
版ができるまで解説したいと思います。
版の素材には、CTP版と呼ばれるものが用いられます。
CTPとはComputar To Plateの略を意味しています。
素材 | アルミニウム |
厚み | 0.1mm、0.14mm、0.20mm、0.24mm、0.30mmなど様々 |
構造 | アルミ基板 +陽極酸化皮膜 +感光層 |
厚みに関しては色々なタイプが存在しますが、弊社では0.24mmを使用しています。
構造について詳しく説明すると、
表面に陽極酸化被膜処理が施されたアルミ基盤の上に、紫外線で化学変化を起こす感光層が塗布されています。
アルミの表面には微細な凹凸が加工されており、これには感光層との密着性UP、親水性UP(インキを弾きやすくする)などの効果があります。
陽極酸化処理皮膜で、アルミニウム表面を腐食(錆など)から守り、強度をUP!
アルミ表面の微細な凹凸で、観光層との密着性・親水性UP!
CTP版から、印刷できる状態の版(刷版と呼びます)になるまでを解説します。
① デザインのデジタルデータを基に、非画線部(印刷されない箇所)に対して、CTP版上にレーザー光が照射される
② レーザー光が照射された感光層に化学変化が起こる
③ 現像液と呼ばれる化学薬品に、②後のCTP板を通すと、レーザー照射された感光層が除去される
刷版完成!
印刷機上では、版には水・インキが敷かれます。水と油の関係と、アルミ:親水性、感光層:親油性の性質を利用し、アルミ剥き出し部分には水が重なり、感光層にはインキが重なることで、画線部と非画線部を再現し印刷されます。
上の写真は、弊社の製版機械です。
① コピー機に紙をセットするように、CTP版を機械にセットします。
② Aのユニットで、デザインから変換されたデータを基に、CTP版にレーザー照射が行われる。
③ Bのユニットで現像液と呼ばれる化学薬品により、レーザー照射した部分の感光層を溶解・除去します。
④ ③後、整頓された状態で排出が完了します。
版代について
版代の中身については、今と昔では製版の方法が異なりますので内容が変わりますが、現代にフォーカスしています。
① CTP版の材料代 + ② 入稿されたデザインデータを製版しても不具合がないかをチェック、または調整する費用
①はCTP版の原価です。
②について詳細を解説します。
印刷会社は、お客様から入稿されてきたデータを右から左で、製版しているだけではありません。
入稿されたデザインデータが、その絵柄通りに印刷される様な印刷データ(完全データ)となっているかチェックしています。
完全データとして成立するためには色々と条件を満たさなければなりません。
代表的なチェック項目を挙げると、
Aiデータ入稿の場合
・フォントのアウトライン化が漏れなくできているか
・画像の埋め込み漏れ、またはリンク切れがないか
・塗り足し(トンボ)は正確につけられているか
などがあります。これらが完全であれば、印刷用のデータに変換(RIP処理)しても問題なく印刷できます。
フォントのアウトライン化、画像の埋め込み等、塗り足し(トンボ)についての詳細はこちらの記事を参考にしてください。
僕の体感ですが、入稿データに不備があるケースは、稀にあります。
品質を守るべく、これらのチェック・調整作業は絶対に無視できません。
その他の版の種類
オフセット印刷では、上述したCTP版の他に3つの版の種類があります。
・PS(Pre Sensitized offset plate)版
・水無し版
・サーマル無処理版
PS版とは Pre Sensitized offset plate の略で、フィルム運用で使用される版です。
PS版の刷版作成プロセスは、
① デザインデータをRIP処理後、フィルム出力機にてフィルム出力
② PS版の上にフィルムをセットし、刷版焼付機にて刷版完成
となります。
フィルム運用はゴミつきや焼きボケなどのトラブルもあり、管理するのが難しい。また、フィルムを作成するためCTP版と比較して、コスト大。
水無し版は湿し水を使わないで印刷できる版です。
PS版、CTP版では、インキと水の性質を利用して印刷していたのに対し、
水無し版は、その名の通り、印刷に水を使用しません。
水無し版の構造は、アルミ基盤の上に感熱層、そのまた上にシリコーンゴム層が塗布されている積層構造となっています。
製版されるメカニズムは
① デザインデータから、画線部となる部分にレーザー照射
② レーザー照射された部分の感熱層が反応→その上にあるシリコーンゴム層が化学変化
③ 化学変化したシリコーンゴム層を、ブラシにより擦り取りにより除去し、製版完了
現像液と湿し水が不要なため、環境に優しい
水無し版は、PS版・CTP版・サーマル無処理版とは違う製版機・印刷機が必要なため、水無し印刷専用の設備を構築する必要がある。
サーマル無処理版は、湿し水とインキの粘性によって印刷機上で現像が可能になった版です。現像液の廃液が発生しないため、環境負荷を軽減できます。
覚えておきたい版に関係する専門用語
・刷版・・・製版工程が完了した版のこと
・下版・・・製版工程の呼称
※下版が開始されたら、デザインの修正は不可能になります
・再版・・・以前印刷した物を、再び同じ仕様・同じ内容で印刷すること
・置き版・・・使用した刷版を、破棄せずに保管しておくこと
最後に
今回は版についての解説でした。
版は印刷を構成する数ある柱のうちの一本ですが、
版だけみてもかなり複雑で、製版には高度な技術が詰まっております。
デザインさえあれば完成に印刷できるということではありません。
デザインから版を作るという作業も、設備と知識と経験が必要です。
原理原則を理解したスタッフが作業しないと、思わぬエラーが生じたりします。
タムラ印刷は熟練のスタッフが、デザイナーの皆様にとって痒いとこまで手が届くサービスを提供しております!
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ぜひ、お気軽にお問い合わせください。
参考文献
桒原 克之,印刷版,軽金属 第67巻 第6号(2017),251–256
東レ株式会社,水なし印刷,SDGs事例2020